カンザキイオリさんの世界観が素晴らしすぎるこの曲。
「あの夏が飽和する。」カンザキイオリ
この曲は本当に素晴らしい世界観の曲なんですよね。僕自身、この曲を聴いて勝手に解釈の物語を書いたくらいで…。
この曲は聞き終わったときに映画を見たくらいの満足感があるんですよね(笑)
以下、前に書いた勝手な解釈の物語です。

「昨日人を殺したんだ」
「君」の言葉は僕の中に梅雨のひどい雨音の中にくっきりと残っている。
「隣の席のあいつが私に水をかけてきたんだ。嫌になって突飛ばしたらあいつはバランスを崩してさ、後ろの机の角に頭をぶつけたんだ。血が出てて呆然としていたら先生が来てそれでもあいつは目を開けなくてさ。」
それから「君」は周りにいたいじめっ子たちに「人殺し」と言われたのだそうだ。
「私は人殺しだからさ、警察に捕まる前にどこか遠いところで死んで来るよ。ばいばい。」
そう言っていこうとする君に僕は言った。
「それじゃ僕も連れて行って」
これはひと夏の僕と「君」の話だ。
そして僕らは準備をしてから集まることにした。
ナイフと財布を持って、いつも遠足で使ってたリュックサックに必要なものだけを入れた。
大好きな携帯ゲームや食パンだけ。写真とか日記とかはもういらないから全部捨ててきた。
そして町が寝静まったころ、僕と君はいつも遊んだ公園にいた。
「本当にいいの?別に君まで死ぬ必要はないんだよ?」
「僕は学校に行けなくなっちゃったから、お父さんやお母さんは僕がいない方がいいんだ。だから一緒に行きたいんだ。」
そして人殺しとダメ人間の旅は始まったんだ。
僕はすごくワクワクした。夜の街はいつもの街と同じはずなのになんか全然違う気がして。
「私、死ぬ前に海を見たいんだ。…いいかな?」
「もちろん、いいよ。どうせ最後だしね。僕も行きたい。」
僕らは海に向かい始めた。
「どれくらいあるのかな?」
「わからないけどすごく遠いかもね。」
「まぁいいけど。」
僕らはひたすら海を目指して歩き続けた。
ある夜に君は泣いていた。
「私は人殺しなんだよね…どうして殺しちゃったんだろう。」
「君は何も悪くないよ、悪いのは世界だよ。だから僕らはこんな世界から二人で離れよう。」
世界を見れば人殺しなんてそこら中にいるじゃないか。「君」が殺したあいつだって僕や君を殺してきたじゃないか。
そして僕らは沢山の話をした。結局僕らは今まで虐げられて、愛されたことなんて一度もなかったんだ。
そんな、自慢のできない共通点があることで僕らはお互いを信じることができた。
家を出てから3日くらい経ったころだった。持ってきた財布のお金はもうなかった。
子供の貯金だ、当たり前だが長く持つはずもなかった。
「どうしよう…もうお金がないよ。」
「大丈夫、僕に考えがある。」
「え?どうするの……?」
「盗もう。今更、犯罪なんて気にしても仕方ないだろ?」
「…そうだね。」
そして僕等は公園や電車で寝てる人の財布を盗んだ。最初はとても緊張した。でも君の手を握ると不思議とその不安は無くなっていた。
時にはバレて追いかけられたこともあったけど、二人で逃げてそのお金で食べたカップ麺はとてもおいしかった。
「なんかさ、僕ら二人ならどこまでもいける気がするね!」
「そうだね、あとどれくらいで海につくのかわからないけどきっと私たちなら行ける気がする。」
夏の初め、暑い中で追いかけられて逃げたときの額の汗はもうどうでもよかった。
いつの間にか歪んでしまったメガネはまるで僕らのようで、でももうそんなことももうどうでもよかった。
ただただ、君といるこの時間が楽しかった。
元の目的もいつの間にか忘れてこれからもずっとこの逃避行の旅を続けていけばいいと本気でそう思ったんだ。
でも、それから数日経って僕らは電気屋のテレビで自分たちの顔が写っているのを見た。内容はわからないが「君」は人殺しでさらにこれだけ沢山のお金を盗んだのであるきっと誰かが警察に言ったのだろう。
「どうしよう…私の殺人で本当に警察が動き始めたんだ…」
「大丈夫、警察から隠れて逃げていこう。」
僕等はそれからフードを被ってマスクをして顔を見せないようにして行動し始めた。
「ねぇ、もしも、もしもだけど、優しくて強いヒーローがいたら、こんな僕たちのことも救ってくれたのかな…」
僕はふとそんなことをつぶやいた。そしたら君は悲しそうに笑いながら言ったんだ。
「そんな夢ならもう捨てたよ、だってさ、現実には私たちに『シアワセ』なんてなかったじゃないか。ヒーローが本当にいるなら助けに来てくれていたはずだよ。だからヒーローなんていないんだ。」
人間はきっと誰もが自分は悪くないと思っている。僕や「君」をいじめてきたあいつらもいじめを悪いなんて思っていないはずだ。いや、そもそもいじめとすら思っていないか。
それから警察の目を盗むように道路は使わずに「君」と一緒に線路の上を歩いた。
あれから当然だが盗みもできなかったのでお金もあとわずかだった。
最後の100円を使って水を買って歩き出した。
気づけば家を出てから1か月が経とうとしていた。もう季節は完全に夏だ。
ペットボトルの水はあっという間になくなっていった。それでも歩き続けてふと潮のにおいを感じた。
「潮のにおいがしない?」
「ほんとだ!海が近いんだ、私たちついに海に来たんだ!」
私たちは喜び合った。そして早く海を見たかった。
「見つけたぞ!あの二人だ!」
「!!!」
僕たちはとっさに走り出した。警察が追ってきたのだ。追ってくる姿は鬼ごっこの鬼のように見えた。やっとここまで来たのに。捕まるわけにはいかない。
僕等は夢中で走った。すでに暑さで視界はゆがんでセミの音が耳に反響していた。それでも走り続けた。
「待ちなさい!」
後ろから迫ってくる鬼の怒号ももはや耳に届いていなかった。
「君」は突然立ち止まった。
「海だ…遂に着いたんだ…」
僕等は追ってきた鬼のことも忘れてはしゃぎあった。
そして鬼が来ると「君」は涙を浮かべながら笑っていった。
「君がいたからここまで来れた。全部君のおかげだ。もっとずっと旅をしたかったけどもう逃げられない。だからもういいよ。」
僕は何を言っているのか理解することができなかった。
「もういいよ。死ぬのは人殺しの私一人でいいよ。」
そう言うと持っていたナイフで「君」は自分の首を切った。
おびただしい量の血が飛び散って君は倒れた。
あまりに一瞬のことに僕は目の前のことが現実なのかわからず、ただただ眺めていることしかできなかった。
そして警察官が駆け寄ってきた。
「なんてことを…。おい、すぐに救急車を呼べ!できる限り止血するんだ!」
夏の暑さにかすむ視界の中の君はわずかに唇を動かして「ありがとう」と僕にいったような気がした。
そのあと別の警察官に僕も捕まった。僕はずっと動けずいつの間にか気を失ったらしい。
次に目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。横には母が泣きながら立っていた。
僕はすぐに「君」のことを聞いた。母は何も教えてくれなかった。
警察の人にも聞いた。それでも顔をうつむけるだけで何も教えてくれなかった。
僕はもう一度だけでも「君」に会いたかった。会って伝えなきゃいけなかったから。
僕は病院内を探し回ったが君はどこにもいなかった。「君」だけがどこにもいなかった。
警察の人に全部を話した。あの日テレビで見た僕らの写真は両親たちが警察に捜索を依頼したものだった。退院したあと親に叱られ。でも何度「君」のことを聞いてもそれだけは何も教えてくれなかった。
そして、気づけば夏休みが終わろうとしていた。
夏休み明け初めて登校すると、教室にはいつもと変わらない日常がいた。
「君」の隣の席のあいつもいた。
あいつは僕に謝ってきた。突飛ばされた後、実はただ気を失っていただけだったそうだ。頭を切っていたため、病院で縫ったが傷が派手だっただけで大したケガではなかったのだそうだ。
だがあいつは親になぜこうなったのか問い詰められて正直に言ってしまい、こっぴどく叱られたらしい。それ以降あいつはおとなしくなったらしく、一緒にいじめてきた奴らも自然消滅的にいじめをやめたらしい。
そして、あいつは僕らが帰ってきたら謝ろうと思っていたらしい。
「「君」にも謝りたいんだけど、いつ来るかしらん?」
僕は何も言わなかった。いや、言えなかった。
しばらくして先生が教室に来ると一本の花が差された花瓶をあいつの隣の席に置いた。
僕は窓の外を眺めてあの旅を思い出していた。
僕は今でも君を探している。君にどうしても言いたい言葉があったから。
雨が降り出した9月の学校で湿気にクシャミをすると梅雨の日々を思い出した。
記憶の中の君はいつも笑顔で、無邪気で。
その幻影に僕は言う。
「悪い人なんて誰もいないんだ。君は何も悪くないから。だからもうそんなにたくさん背負わなくていいんだよ。全部投げ出してしまおう。」
君は何も言わずにただ笑っていた。
きっと君はそう言われたかったんだろう。何も答えてくれない「君」に僕は聞いた。
「そうなんだよな、なぁ。」
僕は君がいないこの世界を君と一緒にこれからも旅し続けるつもりだ。

乱文ではありますが、こんな感じなのかなぁって考察するのが楽しかったりするので本当に恐ろしいくらいに完成された世界観だと思います。